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/挑人/
TOA
米原 俊男
/Toshio Yonehara/
/Profile/
1955年3月10日生まれ。姫路工業大学(現:兵庫県立大学)工学部産業機械工学課卒業。
学生時代はソフトボール部、スキー同好会に在籍。
1977年入社。入って2年目でメガホン拡声器の開発に携わる。以降今までTOA㈱のほとんどのメガホン拡声器の開発に関わっている。
開発商品
ハンズフリー拡声器 ER-1000
開発商品詳細はこちら
STORY
/挑人ストーリー/
『原点回帰』の開発-“解”は現場にある
課題
1934年創業以来、TOAはスピーカーや拡声器などオーディオ関連を主に製造してきた。
2003年頃から『ハンズフリー拡声器』の企画は社内でも声が上がっていた。
しかし、生産コストの面から採算が合わず、企画が実現に結びつく事は難しかった。
2006年頃、OEM取引のあった異業種メーカーから「ハンズフリー拡声器」をOEMで生産してくれないかと依頼が舞い込んできた。
この話を担当する事になったTOAオーディオ開発本部プロダクトマネージャーの山内は両者の強みが活かせるビジネスに目をつけた。
そして、依頼元の異業種メーカに共同開発を持ちかけ、それが2007年に合意され、「ハンズフリー拡声器」の開発が始まる事となる。
そこで開発担当者として長年TOAで拡声器の開発に携わってきた米原が抜擢された。
ここから米原の挑戦が始まった。
Chapter1
【開発プロジェクト発足】
異業種メーカーとTOAとで共同開発としてプロジェクトが立ち上がった。
TOAと共同開発先が依頼しているデザイン会社が中心にデザインを決めていく。
コンセプトは【従来の拡声器の様なラッパ型ではなく、腰に装着して両手が自由になる拡声器】
そう、使用シーンの主役は[女性・先生・個人]である。
《例えば、ショップの店頭で製品を両手を使ってアピールしている女性。生徒の前で話をするときに声を張り上げる事無く全体に話しかける先生。》
そんな場面で活躍する【小型で軽量な拡声器】のイメージが出来上がってきた。
それは今までのTOAの製品イメージとは全く違ったものになっていた。
今までの四角く角ばった硬いイメージから、丸くやわらかいイメージになった。
更に声を拡大する《拡声》から、補うという考えの《補声》という新しい領域への挑戦だった。
Chapter2
【スピーカーが入らない!?】
決定したデザインを見た米原はすぐに1つの課題が頭に浮かんだ。
それは、デザインはスピーカーを入れる厚みが足りなかったのである。
通常、スピーカーは磁気回路を使用しており、フェライトと呼ばれる磁気を帯びた金属を使用したものが一般的であった。
フェライトを使用したスピーカーは十分な出力を出すためにはある程度の大きさ・厚みが必要なのだ。
『この製品をただの「音の出るおもちゃ」にしたくない!!!』
という想いから米原は薄くて軽い野外でも使えるスピーカーの開発に取り掛かった。
長年拡声器の開発に携わってきた米原だからこそ生まれた強い思いだ。
そこには、拡張器メーカーとしての意地があった。
フェライトに比べて薄く軽く、磁力はフェライトの約5倍であるネオジウムに目をつけた。
ネオジュームを使ったスピーカー、これにより重さ・厚みは従来予定していたものの約1/6になった。
これで米原はスピーカーの課題をクリアしたのである。
Chapter3
【常に、使う人の立場に立って・・・】
スピーカーの課題を克服した米原は更なる課題に直面する。
それが【バッテリー】の問題だ。開発のコンセプトの一つ《軽い》というキーワード。
この言葉が米原に重くのしかかった。軽くする一番の簡単な方法は電池の量を減らすことである。
しかし、拡声器やスピーカーの音の大きさは音量調節のツマミを回すだけの単純なものではない。
電源電圧に大きく左右されるものなのだ。
スピーカーの音の大きさは電圧に左右されるように電池を減らせば拡声器の声の大きさがどうしても小さくなってしまう。
米原は出力の問題上、「電池は多い方がいい、最低でも6本は必要だ」と山内に提案した。
しかし、山内は乾電池の数は4本にこだわっていた。市販の乾電池は4本単位で販売されている事が多い。
使う側の立場に立っての意見だった。
それを受け、アルカリ乾電池、マンガン乾電池、充電電池をそれぞれ試作機に実装してのいつ終わるとも分からない試験が始まることになる。
無響室での音圧試験、耐久力試験室での電池寿命試験を何度と無く繰り返し、テストで使用した電池は1週間で100本以上を越えた。
最終的に乾電池を入れるスペースは6本で作られた。
しかし4本+※付属のダミー電池2本でも使えるようにした。
屋外で大きな出力が必要な場合は6本、室内などの音の通りやすい空間では4本+ダミーといったように使い分けが出来るようにした。これが、試行錯誤の末に達した、ひとつの結論だった。
※ダミー電池:電池の代わりに入れて電気を通すだけのもの。
Chapter4
【シンプル且つ使いやすく】
東京都のある役所の危機管理課の方と「ハンズフリー拡声器」の試作機を持ちこんだ時の事だ。
山内の構想の中にはメモリー機能が搭載される予定であった。
一度録った音声を登録してリピート出来るようにしようと考えている事を話してみた。
すると言われた一言が、
『いつもメーカーさんはむずかしい機能を多く付けて価格を高くしようとする。みんな携帯用音楽プレーヤーぐらい持ってるんだし、そこに必要な音源を入れたら何度でもリピートできるじゃないですか。』
この一言が山内の心に深く突き刺さった。
【普及しているものを使えるようにしてシンプル且つ使いやすく】
これをきっかけに、音楽プレーヤーを繋ぐためのAUX端子を加え、音楽プレイヤー本体や交換電池を入れるポシェットも装備することにした。ユーザーの意見に耳を傾けた結果だ。
他にも、シンプルで使いやすい商品にするために、ユーザーの立場に立って、考えつくかぎりの工夫と知恵を盛り込んだ。
●大型操作ボリュームと大型スイッチを採用し、手探りでの操作性を向上させ、手袋をはいていても操作ができるようにした。
●緊急時には、スイッチを押すだけで電源が切れ、スイッチを押せばまた元の状態に即座に復帰することが出来るようにした。
●高輝度LEDランプの採用した。(屋外でも電池の状態が認識できるため)
●マイク・AUX入力端子の配置は、マイクロホンケーブルを背中から引き込める位置に設けることにした。
(商品を動きながらの使用しても、ケーブルが邪魔にならないようにするため)
●端子には、屋外での使用を想定して、防じんゴムのカバーを採用した。
などなど…。
こうした細かい部分にまでこだわって『使う人のため』という想いを沢山込め、多くのお客様の意見を取り入れ、ついに
『ハンズフリー拡声器』が誕生した。
Chapter5
【売れると確信した瞬間:ラジカセ+大声がこれ一台?】
共同開発先の取引先が最初にデモとして数百台発注。営業マン一人につき一台がデモとして渡された。
この瞬間、山内は「売れる」と確信した。
何故なら、通常取引先は製品のデモを購入せずにメーカーからレンタルで調達するためだ。
この会社が売れると確信し、投資してくれた事が山内の更なる自信に繋がった。
この会社を通して、両手が自由になる「ハンズフリー拡声器」は幼稚園の先生から絶大な支持を得る事に成功した。
また「ハンズフリー拡声器」はさらに色々なところで大きな効果をもたらした。
今まで営業がなかなか訪問する機会のなかったユーザーなどでも、ハンズフリー拡声器を足掛かりに話が出来るようになって営業力強化にも繋がっている。
工場案内の時や、警備員が誘導する時などのあらゆる場面で使う事が想定できる。
乗り越えてきた苦難が実を結び、多くの人に支持されたのだ。
その結果、新しい業界にも力強く一歩を踏み出せる。
今後、更なる普及を目指して様々な分野・業界での使い道や企画を構想中である。
より多くのお客様からの「これええわー。」という一言を頂くために米原と山内、二人を支えたTOAの開発スタッフ、そして、ともに試行錯誤を繰り返した共同開発先やデザイン会社。
業種の垣根を越えて結成され、画期的なハンズフリー拡声器を世に送り出した挑人軍団の挑戦は、まだまだ終わらない。