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/挑人/
TOA
苅谷 友史
/Tomofumi Kariya/
/Profile/
1979年5月16日生まれ。同志社大学工学部電気工学科卒業。入社以来、パケットオーディオ技術の基礎研究、開発に携わる。IP告知放送システムで初めて、ものづくりの現場・利用される現場を経験し、その経験を元に、足を使った開発者を目指す。毎週土曜日のサッカー後、愛妻との晩酌が楽しみ。モットーは「飲みに誘われたら断らない」こと。
開発商品
IP告知放送システム
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STORY
/挑人ストーリー/
真のCSRを目指す志
-阪神・淡路大震災を経験したメーカーが挑む安全・安心の実現
課題
市町村防災行政無線(同報系)をご存知だろうか。
大規模災害発生時の緊急放送、緊急事態の際の情報伝達(J-ALERT)、時報、地域イベントの案内などを屋外に設置している拡声器を通して放送するシステムのことだ。
この防災行政無線は、過去に災害があった地域では整備が進んでいるが、そうでない地域では整備が進んでいない、という問題があった。
岡山県倉敷市も、恵まれた環境で、防災に対する意識が高いとは言えなかった。
市長の危機感は、これまでにない防災システムへとつながっていく。
「ネットワークを防災に」
ネットワーク方式の防災システムは、大容量のデジタルデータをもって、正確な情報を双方向でやり取りできる防災システムが構築できる。
しかし自治体での採用例が全く無い。
市町村防災行政無線市場は、TOAがこれまでに経験してこなかった市場、売り方だからこそ、市場導入の難しさが付きまとう。
“志”を同じくするチームの発足。そう、そこにあるのは“志”のみ。
防災とは何か。議論を繰り返し、より強固に育て上げた“志”を追う。
Chapter1
【覆される固定概念。主体者だけが語ることができるニーズを探れ!】
岡山県倉敷市。
「晴れの国おかやま」の通り、瀬戸内の恵まれた環境で、天災の経験が少なかった倉敷市を、不幸が襲う。
平成16年の台風16号、18号、23号による大雨で、死者数は計8名に上った。
喫緊の防災対策が必要とされた。
倉敷市でも、もちろん既存の防災システムが既に稼働していた。
しかし、既存のシステムでは、音声を一方的に伝えるのみで、避難場所の状況や、避難した人がどのような状態なのかを知ることができない。
ネットワークを利用することで、一度に多くの受信者と、音声や映像などの大容量デジタルデータをやりとりすることが出来るのではないか。
阪神淡路大震災で、唯一、通信可能だったインターネットに目を付け、倉敷市の防災対策案が進められた。
そして、白羽の矢が立ったのがTOA。偶然にもTOAは本拠を神戸に持つ会社だ。
倉敷市と一体となったプロジェクトが始まろうとしていた。
Chapter2
【市場の顕在欲求と内部の開発欲求を直視する】
実は、このプロジェクトは、順風満帆に始まったわけではない。
岡山営業所山田所長(当時)、営業担当の平岡(当時)からの開発要請の猛アタックの中、プロダクトマネジャーの山内は、まだ乗り気には、なっていなかった。そこまでの需要が見込めなかったからだ。
一方、研究開発(当時)に所属してモノ創りに飢えていた岡本は「やっとモノ創りに携わることが出来る!」と、喜びを感じていた。
この二人で商品開発をおこなうか?中止するか?を判断するための市場調査が実施された。
ネットワーク環境が整備されていた倉敷市とは対照的な地域を選定し、市町村防災課を片っ端から訪問。
防災対策での問題点を聞き込んだ結果、意外なことに、環境に違いはあっても、どの地域でも抱えている問題は同じだった。
*防災無線を完備しようとすると初期投資で20~30億かかる。
*一般的なIP告知端末では、サーバーがよく止まるなど、精度や信頼性に問題がある。
*メンテナンス費用にコストがかかりすぎる。
自治体が財政難に苦しみ、必要性を感じつつも導入できない姿が浮き彫りにされた。
「我々のパケットオーディオ技術が市町村防災に役に立つ」
いつの間にか、岡本と山内は、市場調査の車中で商品の仕様について議論していた。
開発チーフは、岡本の下で長年パケットオーディオ技術の研究を進めてきた苅谷が選任された。
岡本同様、長年モノ創りに飢えていた。
苅谷の、システム開発に向けた試行錯誤の毎日が始まった。
市町村防災とは何か?防災課とは何をやっている部署なのか?防災行政無線はどのように運用されているのか?
商品開発とは直接関係ないことを、一から別に勉強する必要があった。
また開発途中でありながら、試作機を持って何度も自治体防災課へのデモを行いながら、商品コンセプトは正しいのか?仕様は問題ないか?を確認した。
帰宅は毎日深夜となったが、人の命を守るために役に立つ商品が故に、苅谷は寝食を惜しんで開発に没頭。
そしてついに2008年12月、他社のIP告知放送システムとは一線を画す、「サーバーレス方式」によるIP告知放送システムが完成した。
Chapter3
【プロジェクトチームの結成-目指すは、ソリューション・セールスへの脱皮】
市場での潜在的なニーズを、TOAが持つ技術で解決していくため、商品開発前の2008年2月、防災プロジェクトチームが発足。
苅谷をはじめ、全国から、開発、システム技術、販売企画、営業そしてプロダクトマネジャーが集まった。
災害に真摯に向き合うメンバーが、自然と集まり、結成されたプロジェクトチームだった。
実は、防災行政無線/屋外拡声器のトランペットスピーカーでは、約50%のシェアを持つTOA。
単にトランペットスピーカーを部品として供給しているため、価格競争になっているのも事実だ。
この価格競争から脱却するには部品単体だけではない、防災システムを包括したIP告知放送システムを魅せていく必要がある。
プロジェクトのメンバーで、販売企画担当の小田切は、全国の営業マンが動きやすいよう、商品デモ・展示会の準備を進めた。
「誰もが簡単に商品デモを行えるようにするには、どうすれば良いのか・・・?」
営業マンがあれこれと機材を揃えなくてもよく、接続するだけで簡単にデモができるよう、動作設定済み商品と接続ケーブルなど、システム一式をセットにしたデモ機を用意した。
さらに驚いたことに、リアリティを追求した小田切は、展示会で、実際の屋外拡声子局をイメージさせるポールに、トランペットスピーカーを取り付けて展示する、という前代未聞の展示方法を考案した。
多くの営業マンが、小田切の陰ながらの努力に共感し、営業に邁進した。
今回のプロジェクトに限らず、TOAでは、
「機器を販売するというハイプレッシャー型のセールス活動から市場の顕在ニーズ・潜在ニーズを的確に捉え、顧客の問題解決に貢献するソリューション型のセールス活動への脱皮を模索している」
と言える。
顧客へのトータル・ソリューションとは何か。
模索を続ける“志”を持った同志が集まり、商品開発前からのソリューション・セールスを実践する土壌が、確かに築かれていた。
Chapter4
【実績を作れ!論より証拠-】
内覧会に出展した際には、既存取引先から「何に使うの?」「防災は無線が常識でしょう?」という厳しい意見もあった。
システムの説明だけでは足りない、実際に導入された事例でのイメージの喚起が必要だった。
そのためにも、納入実績を伸ばさなければならない。
折しも、2007年10月1日から本格的な運用が始まり、緊急地震速報が注目された頃。
プロジェクトメンバーである東京営業所の凍田は、NTTの動きに注目。
緊急地震速報は、気象庁からの情報を専用の受信機で受信し、拡声器を通して伝えられる。
情報を伝達するためのフレッツ回線を敷くことがNTTの役割。
情報の流れを押さえれば、拡声器までつながるシステムのヒントとなる。
凍田は、NTT東日本の17支社を巡り、防災対策の必要性を深めていった。
そして2009年夏、初めて東京都某区へとIP告知放送システムを導入。
目的は、災害の恐れがあるときに、地域に35か所あった教育施設に、迅速に緊急放送を流すこと。
しかし、緊急地震速報を受信するために必要な受信料は約2万円。
学校ごとに受信料を支払えば、膨大な金額になる。(約70万円/月の支出)
加えて、学校ごとに専用の受信機を置くことが必要となり、導入コストも増大する。
そこで区役所が気象庁からのデータを受信し、区役所から教育施設に向けて緊急放送を流すシステムを構築。
既存のインフラを活用したこと、そして受信料の支払いを区役所のみにしたことで、コストの削減を図った。
普段は、緊急以外の用途でも使うことができる。
このシステム提案は数多くの競合他社の群を抜いて高い評価を得た。
テストに立ち会った営業の凍田は言う。「初めて音が鳴った時、感動した。」
プロジェクトチームにとって、重要な第一歩というべき実績となった。
(2010年度は、35校から71校に増えているという)
Chapter5
【量から質が生まれる。パターン化と効率化を目指す】
自治体防災課へのプレゼンや関連展示会に出展するために凍田、岡本、苅谷、山内の4人は、全国を飛び回った。
その中で、パターンが分かってきた。そのパターンとは・・・。
東京都某区の場合、既存のインフラがあったが、他の地域にそのインフラがあるとは限らない。
例えば、宮城県某町の場合。
すでに22か所に設置されていた防災行政無線とネットワーク方式とのハイブリッドパターン。
そして、岩手県某町の場合。
インフラが何もない、ネットワークの構築からのパターン。
何よりも多かったのは、既存の防災システムが既に稼働しているパターンだった。
ネットワーク方式の防災システムは、無線方式の置換えではなく、既存の防災システムの、補完的な役割を果たすこと。
無線のメリット、ネットワークのメリットを活かすことが重要だ。
一からのネットワーク構築になると、それにかかるコストも莫大になるが、既存システムの補完だと、そこまでのコストは必要としない。
また小学校、中学校、公民館・・・公共施設には、大抵、館内放送設備が設置されている。
それらを、役場からの防災放送の拡声設備として利用することで、防災行政無線/屋外拡声子局だけでは聞こえない公共施設へ、確実に防災情報が伝達できる。
そして災害後には、災害対策本部から避難場所となる学校の体育館への支援物資配給時間のお知らせにも使える。
災害前・災害後に使え、しかも既存ネットワークや公共施設の既存音響設備を利用することで、低コストで導入できるユニークな防災システムとして数多くの自治体が着目しはじめた。
無線が常識だった防災放送。
そこにネットワークの可能性を盛り込み、映像や双方向での安全確認を実現した、倉敷市をはじめとした緊急情報提供システム。
地域住民の安全を守るシステムは、現在、稼働を始めている。
「今でも、テレビで地震速報を見ると、落ち着きません」
と語る苅谷は、安全・安心を守るためのソフト拡充に余念がない。
市町村だけでない、大学などの広域に渡る施設での設置や、鉄道とのコラボレーションなど、次に目指すべき方向性が、すでに視野に入っている。
阪神淡路大震災を経験したTOA。
そのTOAだからこそ生まれた防災プロジェクトチームの支える安全・安心が、日本全国を覆う日は目前かもしれない。